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zoom RSS 加藤典洋『戦後入門』(ちくま新書)を読む その1

<<   作成日時 : 2016/03/04 09:36   >>

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1.
 過日(2月29日)、加藤典洋『戦後入門』を読了した。600ページを超す膨大な本である。さて、ここには何が書かれているのか。

  わたしは3年ほど前から沖縄に通い始めた。多くの方に会い、話を伺い、文献に目を通すようにしているうちに、いくつかの問いが叢雲のように湧きおこってきた。最終的に行きついたところは、「日本は主権国家ではないのではないか」という問い(疑念)。もうひとつは、「現・安倍政権は、なぜアメリカの国益を、自国民の利益や意思よりもはるかに優先させるのか。しかも強権的に(とわたしには映る)」という問いだった。
そしてこれはまた、現首相(安倍)が「戦後レジームからの脱却」や「美しい国を取り戻す」というスローガンを打ちたてながら、なぜこれほどアメリカ従属路線をひた走るのか、矛盾ではないか、という問いでもあった。
  沖縄に足を運ぶたびに、沖縄が、日本の「戦後70年」の背理や不合理を体現する坩堝のような場所だということに、遅まきながら、段々と気づいていった。
  こうしたわたしの問いに、加藤の『戦後入門』は、どまんなかのストライクを投げてきた。それが、読後の最初の感想であった。

以前、話題になった白井聰の『永続敗戦論』(13年)や赤坂真理の『東京プリズン』(12年)、そして矢部宏治の『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』(14年)などが、戦後の疑念、日本はどこまで主権国家か、という疑念を露出させてきたと考えてよいが、なぜ70年もたたなければ、見えなかったか。
経済成長が、ひとまずそれを見ずに済ませてきた(豊かなんだから、ま、なんでもいいんじゃね……影の声)。核の支配する米ソ冷戦が、大衆の無意識に、日米安全保障条約をむしろ必要だと感じさせてきた(60年と70年の、反安保闘争に、2回も負けちゃったし、ソ連に侵略されるより、いいかも……同)。そしてなによりも、世界に冠たる平和憲法で守られている国だし。……と受け入れてきた。

  しかし、じつは、そうは問屋が卸さなかった。
日米安全保障条約のもとで沖縄に駐留する米軍海兵隊は、軍事即応部隊であり、いつどこで何が起きても、すぐに現地派遣できる態勢をとっているという。だからこそ、日常的な実戦訓練が必至となる。このことは、いってみれば常時戦時下にあるということであり、そのような基地を抱える沖縄もまた、常に戦時下に置かれていることになる。
  さらに、日米地位協定があり、この法律と日米安全保障条約が、日本国憲法よりも上位で機能しているということが、再三明らかになっていた。日米地位協定も、安全保障条約も、いうまでもなくアメリカの国益を最優先として運営されている。ということは、日本の安全保障(平和憲法)とは、米国の国益が優先される限りで適用され、機能するものだということを、おのずと語っている。

(横道にそれるが、してみると現首相が特定秘密保護法を強行採決し、「憲法違反!」の大批判をものとせずに集団的自衛権の行使を独断したのは、けだし当然だと言えるかもしれない(賛成だと言っているのではない)。アメリカ従属を第一義としている現首相にとって、アメリカが自国の利益よりも下位だと見ている日本国憲法を、最上位のものとして守らなければならない義理はない、とそう考えたとしても不思議はないということだ。
「戦後レジーム」の元凶は日本国憲法である、絶対に自分の首相任期中に、これを改正する。これが最大の命題である(2016年2月25日、今夏の参議院選で3分の2の議席獲得を目指す、と発言したことが各新聞で報じられたが、これは本気だと思う。合併した野党が、党名をどうするか、などというしょもないことに、うつつを抜かしている場合ではないとわたしは思うのだが)。
では、自分(現首相)はどうすればよいか。自身がアメリカ(の体現者、あるいは代弁者)になればよい、アメリカ(の体現者)になれば、日本国憲法を二義的なものとできるし、そのスタイルを押し通すことが、憲法改正への糸口をつくるもっともよい方策である。……通常は信じがたいロジックだが、こんな風に考えているのではないか、と推測する以外、説明できないのではないか。
くりかえすが、この、「徹底してアメリカに従属することが、日本国憲法と戦後レジームからの脱却になる」。あるいは「現行の日本国憲法や戦後レジームからの脱却を果たすためには、対米従属を徹底させるのがベストである」という現首相のアクロバティックな言動は、この推測以外、説明できないのではないか)。

 もとい。
沖縄の土地(領土)は強制的に収用されつづけてきたが、政府は、いっさい抗議をせずにきた。(軍用地主は膨大なカネをもらい、利権の温床となっている、なにをいまさら批判し、反対するか、という指摘がときに見られるが、これは本末転倒である。最初に批判されるべくは、強制的に土地を収用したほうか、その金銭で生活を維持してきたほうかどちらであるか。原因を作ったのは土地を奪った者のほうであり、そちらが先に批判されるべきであるとわたしは思う。
また基地の返還は少しずつ進んでいるではないか、という言説も、ときに飛び交う。これもおかしい。たしかに不要になった基地は返還されてはいるが、奪われたものが戻るのに、感謝しなくてはならないいわれはない。また地元メディアが言うように、ほとんど耐用年数の切れかけた基地施設と土地を返し、その分、辺野古ほかに、軍事基地としての最新機能を集中させようとしていることは、わたしにも推測できる。

さらには、重要決定についての沖縄の民意は、ことごとく無視され続けている。
(沖縄のサイレントマジョリティは必ずしも基地反対ではない。そう現政権やアメリカのシンクタンク(日米関係の専門家)、日本の一部保守派はいうが、これもまた事後の指摘である。沖縄の意思(民意)が保革に二分されるのは、2000億、3000億を超す振興予算(膨大な金のバラマキ、という言葉は失礼にあたるだろうか)によって、徹底した分断統治がなされ続けてきた結果ではないか。
ダムの建設、原子力発電所の設置など、国策規模の大事業にあっては、経済をてこに反対派の切り崩しがなされるのは常套手段である。最初は多数だった反対派は、一人減り、半数が減り、やがて共同体や親族からも孤立し、ときには家族も分断される。沖縄も然りだろう。そうやって自分たちが「民意の分断」を謀っておいて、そこに生じた結果を、沖縄県民自らの意思であるかのごとく述べたてるロジックは、わたしには、にわかには呑みこみ難い。そして現在、沖縄県民(の半数? 過半?)は、こうした手法にノーと言っているのである)。
 
このようにして、憲法も、土地(領土)も、民意もことごとく無視され、他国(アメリカ)の意思が、「安全保障」の名のもとに優先的に貫徹されつづけてきた。戦後70年に渡って、こんなエリアを抱え込んでいる国を、はたして主権国家と呼べるのかどうか。――沖縄に足を運び、「戦後」を振り返る著作を読めば読むほど、このような問いが頭の中を駆け巡っていた。今頃気が付いたのか、と言われるかもしれないが、まったく今頃になって気づいたのだった。

 そしてこの問いは、必然的に次の問いを招く。「護憲」「平和憲法の堅持」「9条を守れ」と言っているだけでいいのか? 間違いなく、現平和憲法はわたし(たち)にとって、かけがえのないものとなっていることを、わたしは認める。
  しかし、「護憲」の先にあるのは、日米安全保障条約の堅持であり(自国の軍隊は持てないわけだから、必然的にそうなる。よもや中国や北朝鮮との間で、安全保障条約を締結するなどということは、99.999%ありえないだろう)、それは沖縄の基地負担の現状固定、あるいは負担を増しながらの永続的駐留。本土の自治体が、負担を分担しようという意思を示さないかぎり、これしか導かない。それでいいのか? 
しかしまた、「自主防衛に専念し、主権国家としてアメリカから自立する」と言ったとたん、日本は孤立する。米中韓は激しく反発するだろう。EU、ロシア、アジア諸国、他にも世界の少なくない国が危惧を示し、批判が噴出するだろう。あっという間に、第二次世界大戦の前のように、日本は孤立無援の国になる。
どんづまりじゃねえか。……

  そう、ものの見事にどんづまりである。
こうした出口なしの状況からどう脱け出るか。ここに、矢部宏治の著作は大きく切り込んだ(軍事条約や国際法に目配りを利かせた、相当にリアルな議論がなされていた)。そして加藤は『戦後入門』でそれを受けとめ(もう一つは内田樹の著作、日本国憲法論やそのほかだろうか)、「戦後を終らせる」ための道筋を示そうとしたのであった。
――『戦後入門』にはどのようなことが書かれているのか、と尋ねられたら、ひとまずは、こんな本だというのが、わたしが用意した答えである。(続く)


追記(13:25)
 この記事をアップした直後、「毎日新聞ニュースメール」より、「辺野古、政府が工事中止 和解案受け入れ」という「号外」が飛び込んできた。
 「工事中止」という文字に驚いたが、急いで付けたテレビのNHKニュースを見ると、裁判所の和解勧告を受け入れた、というもので、辺野古移設の意思は従来通り変わりはない、という首相談話が流れた。
「ケンカは止めた、話し合おう」ということだろうが、選挙を睨んでの決断、という解釈に、どうしても傾く。
 参議院3分の1の議席獲得に、なりふり構っていない選挙対策の、その第1弾ではないのか。






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